DC開発フォーラム第226回BBL「日本の教育経験と世銀SABER(Systems Approach for Better Education Results)への示唆」

第226回BBLの議事録が出来ましたので、以下をご覧下さい。配布資料等もこちらのHPからご覧になれます→http://www.devforum.jp/bbl/


第226回DC開発フォーラムBBL2012年5月3日
「日本の教育経験と世銀SABER
(Systems Approach for Better Education Results)への示唆」
プレゼンテーター
澁谷和朗
国際協力機構 人間開発部基礎教育第二課
>質と量の観点から見た日本の教育経験
①明治期の初等教育就学率が急激に伸びた時期、②中等教育就学率が急激に伸びた昭和初期、③義務教育がほぼ完全に普及した第二次大戦後、④後期中等教育と高等教育就学率が急増した昭和の後半、⑤高等教育就学率がほぼ100%に達した平成初期、の5つの時期が量の観点から見た日本の教育経験の特徴的な時期として挙げられる
質の観点から日本の教育経験を振り返ると、近年やや順位を落としているが1960年代には早くも国際学力調査の結果でトップクラスに位置し、かつ都市・農村間の学力格差は一貫して小さいままであった。これも日本の質の高い教育が地域による偏りが少ない形でに行われている事を示している
>質が高く地域による偏りが少ないな教育のために実施されてきた日本の教育政策
①1973年の人材確保法の導入による教員給与の増加、②教育養成系大学院を全国各地に設立、③授業研究や職員会議に代表される自律的な学校運営、④教育の質の平等性を考慮に入れた教員人事異動制度、⑤へき地手当の支給、等が教員の質を保証するための日本の特徴的な政策として挙げられる
日本の教育システムでは、地域による偏りのない教育機会を提供するため、中央が財政的な支援を行う一方で、県レベルが教員採用を行い、市町村レベルが学校の管理を担うことで学校レベルでは予算権・人事権を持たず、質の高い教員集団を通じた、質の高い教育を供給することに専念するというシステムをとってきており、、教育行財政の面で国・県・市町村・学校の役割分担のバランスを考慮したを教育システムだと言える
>日本が現在直面する教育課題
終身雇用制度の終焉と期間雇用の増加への対処、少子化に伴う高等教育就学率の増加とそれによる高等教育の価値の相対的下落、国際学力調査における順位の低下傾向、新学習指導要領の導入、学校選択制に代表される教育の自由化・地方分権化の進展、モンスターペアレント問題等、が日本が現在直面する教育課題であると考えられる
>SABER (Systems Approach for Better Education Results) とは
世銀のEducation Strategy 2020の柱の一つでもあるが、他国の教育政策との比較から自国の教育政策を考える際に参照可能なデータベースの構築を目指している
就学率や、学力に代表される教育の質に関するアウトカムレベルの指標と学校建設、現職教員研修等のインプットの間でブラックボックスとなっていた部分を、教育制度・政策という複合的なシステムに着目して、解明していこうという試みである
これまで行われてきた各種先行研究、インパクト調査等の等のエビデンスに基づいたベストプラクティスに基づくデータベースを目指している
>SABERの指標の一例
Latent, Emerging, Established, Advancedの4段階で評価している
各国の事情はもちろん異なっているものの、比較可能なように統一の基準を作成した
学校の自治・説明責任について、日本・フィンランド・ブルキナファソ・セネガルを比較。日本・フィンランドのような国際比較テストで高い成果を収めている国であっても、この指標において高い評価を得ているわけではない事、途上国も政策的意図においては高い評価を得ている事が気づきの点である
評価方法・他の分野の教育政策の影響・政策実施との関係を今後考慮していく必要がある
>まとめ
今後の課題としては、①政策のインパクトを分析するためにも、政策意図と政策実施の双方を見ていく事が必要、②政策実施と現場の相互作用を見る必要性、③政策実施を評価する仕組み作り、④SABERの結果をどのように具体的なプロジェクト形成に活かしていくか、の4点が考えられる
質疑応答
Q. SABERは現場でどのくらい役に立てることができると考えているか?
A. 世銀のTask Team Leader (案件担当者) がSABERの結果をどのように活かそうとするかどうかの問題意識が重要だと考えている
Q. 今後のMDGsの議論では一国内の格差に焦点が当たっているのに対して、SABERにおいて国内格差は見ずにクロスカントリーで国を見る必要性はどこにあるのか?
A. 国内格差を見ることができないという限界はありつつも、その国が抱える教育政策の課題を分析し現状を認識するためのツールの一つとして使えるのではないかと考える
Q. 地方分権化を理想としたSABERのモデルをどう捉えるか?
A. 地方分権化を推進すると地域間、学校間の格差が拡大するのではないかという懸念は存在する。もともと移譲された権限を活用できるキャパシティーのある所には良いが、キャパシティーのない所に権限を降ろすだけで成果を期待するのは難しいのではないかと考える
Q.国際比較テストで示されるような学力のみを教育開発の目標とするのではなく、人間形成などの側面にも目を向けるべきではないか?
A. 確かに、学力も人間形成もどちらも必要で、そのバランスが大事ではある。
参考HP→http://web.worldbank.org/WBSITE/EXTERNAL/TOPICS/EXTEDUCATION/0,,contentMDK:22710669~menuPK:282391~pagePK:148956~piPK:216618~theSitePK:282386,00.html

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